2016年7月4日星期一

成功するIoT製品開発──モノづくりにもWebのスピードを

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/020100027/

第1回]IoT製品開発に求められること

「IoT」(Internet of Things)という言葉が頻繁に聞かれるようになっています。そんな中、実際のところ何をどう行ったらいいのか分からないメーカー担当者も多いでしょう。IoT時代のモノづくりには、これまでの製品開発とは異なる方法論が必要となります。この特集ではメーカーがIoT時代に生き残り、さらに成長していくための方法を紹介します。メーカー以外の方も、この特集を通じて、IoT時代の新しいモノづくりについて理解を深められるでしょう。
 ここ1、2年ほど商談の場でもたびたび話題に上がってくるのが「IoT」というキーワードです。おそらく皆さんの会社でもインターネットや新聞、エキスポなどに参加した経営者が突然目の色を変えて「これからはIoTだ」と言い出したのを聞いたことがあるかもしれません。
 IoTというのは「Internet of Things」の略で、日本語では「モノのインターネット」と呼ばれています。従来、インターネットとはパソコンやスマートフォンなど、人が能動的に扱うツールをつなぐものでした。一方、IoTではセンサーやカメラなどのハードウエア(モノ)がインターネットに接続されます。インターネット側にはサーバーやクラウドといった巨大なコンピュータ群が存在しますが、センサーとサーバーのやり取りに際して人が介入することはほとんどありません。センサーが自動的に収集したデータをサーバーにアップロードし、そのデータを使ってサービスを改善したり、新しいサービスにつなげていくことが想定されています。この市場は今後数年間、一気に広がっていくと言われています(図1-1)。
図1-1●旧来のネットワークとIoTの比較
出所:ニフティIoTデザインセンター
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 そんな市場予測もあり、各企業がIoTに対して前のめりになっているわけですが、実際のところ何を行ったらいいのか分からないという方がほとんどです。私たちが行っているIoT関係のセミナーでも同様です。多くの皆さんが情報収集を目的にセミナーに参加されています。実際、IoTに向けて現実的に動き出している企業はまだまだ少数で、いつから始めようかと同業他社の状況をうかがっている最中に見えます。
 このIoTの現状を見るに、かつての1998〜2000年頃のインターネットブームが思い出されます。あの当時も突然現れたインターネットなるものに対してどう対応すべきか、すべての企業が状況をうかがっていました。そんな中、先鞭をつけ、さらに失敗を積み重ねつつも成長していった企業がブームに乗って大きく成長していったのは決して遠い昔のことではありません。
 それと似た状況が今のIoTと言えます。他社に先駆けて自社のデバイスやセンサーを用いて何ができるのかを検討し、手を付けた企業こそが今後生き残っていけるのです。とはいえ、右も左も分からない中で突き進んでも失敗しかないでしょう。今はインターネット上にも情報が溢れていますので自分で調べることもできます。さらにかつてインターネットブームで経験した方法をベースに、IT企業は多くのIoT関連ソリューションを生み出しています。彼らの知見を頼ることで失敗のリスクを極力抑えたIoT市場への参入が可能になるのです。
私たち、ニフティのIoTデザインセンターは、多くのメーカーとIoTビジネス成功に向けたプロジェクトを多数行っています。もともと私たちもIoT専業というわけではありません。メーカー各社が作るデバイス、センサーとインターネットを組み合わせてどんな面白いことができるかを一丸となって日々検討しています。そうやって徐々に知見を培っている段階です。
 この連載では、私たちが現在進行形で経験している案件をベースとして、メーカーが実際にIoT市場に打ち出そうと取り組みの中で起こった問題やその解決方法を紹介します。IoTはニュース性があるので、一見すると華やかで、問題が起こらずにすごいものが出来上がるようなイメージがあるかも知れません。しかし現場レベルでは多くの課題が発生しており、担当者たちが集まって解決しています。そんな生の現場を知ることで自社がどういった方向性に進んでいけばよいのか分かるはずです。

センサーから始まるIoT?

山田 :我が社もIoTに対して取り組んでいきたいと考えています。
 A社から声がかかったのは今年の春でした。当初、彼らは当社の基盤サービスを利用してスマートフォンアプリを開発したいと考えていました。もちろん要件的にはマッチしますが、A社の考えていたのはスマートフォンとインターネットに留まるものではなく、外部センサーを組み込んだ子供向けの玩具とも組み合わさるアプリを想定していました。IoTを構成する要素としてネットワークは不可欠ですが、ネットワークとして間にスマートフォンが入っているのはよくある形です。スマートフォンのネットワーク(3GまたはLTE)を使うことで、ネットワークコストを利用者に委ねられるのが利点と言えます。
 そこで私たちはアプリ開発とともに、デジタルトイも組み合わせたIoT案件として提案をすることとしました。当社の飛騨がA社担当の山田さん(仮名)から詳しい話を聞くところからはじまります。
飛騨 :今回のIoTへの取り組みですが、ターゲットはどういった層を考えているのでしょうか。
山田 :センサーは作ってあるのですが、実のところ、それ以上のものはまだ白紙です。ユーザー層はなるべく絞らず、多くの人たちに売りたいと思っていますが…。
 A社の作ったセンサーは高精度かつ多機能なものでした。問題は、この時点ではそれ以上のアイデアが何もなかったことでした。おもちゃに触ったり、おもちゃを持ち上げたりといったデータを正確にスマートフォンの画面上に表示しても子供は面白くありません。その意味で利用者視点の欠けた状態だと言えます。これは多くのメーカーの方々に会って感じる点で、特にB to B でビジネスを行っていた企業に多く見られます。
 B to B の場合、営業担当者がクライアントに対して細かく説明し、彼らのニーズにマッチするサービスを提供できます。しかしB to Cの場合、メーカーは購入者へ対面で販売する機会は多くなく、彼らのニーズは細かなマーケティング活動の中から見いだしていく必要があります。その観点がなければ失敗は火を見るよりも明らかでしょう。IoTありきではなく、サービスありきでの計画であるべきです。
飛騨 :このセンサーは面白いデータがいろいろ取れます。このデータを使ってどんなデジタルトイができるのか、いくつか企画を考えてみましょう。
 私たちはセンサーを持ち帰り、社内外を通じてどんなサービスができるのか検討しました。実際、センサーはとてもユニークなもので、対象年齢層によって幅広い使い方が考えられそうでした。最近では子供に限らず、ロボットのような大人向け玩具も注目されています。ターゲットが様々にある以上、それぞれに応じた最適なサービスがあるはずです。私たちの企画ではそうしたターゲットを絞り込む方向で考えていました。
 しかしこれらの考えはA社にとっては許容できないものでした。IoTという言葉があまりにもボヤッとしたものであるためかも知れません。IoTは特にはっきりとした定義がない分、網を広げすぎてしまうきらいがあります。この点は各企業とも注意が必要でしょう。

メーカーがIoTに参入する理由

飛騨 :御社はこれまでB to Bでビジネスを行ってきましたが、今回はなぜ消費者向けに展開されるのでしょうか。
山田 :確かに未知の分野ではありますが、今後を見据えた上で挑戦するなら、IoTに注目が集まっている、このタイミングかなと。
飛騨 :分かりました。弊社は消費者向けのインターネットサービスを長く行っておりますので、役立つ知見があるかと思います。
 A社がなぜIoTに参入したがっているのでしょうか。これは他のメーカーにも当てはまりますが、以下のような理由が挙げられます(図1-2)。
売り切りからストック型サービスに
図1-2●メーカーがIoTに参入する理由
出所:ニフティIoTデザインセンター
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 日本は人口が減少傾向にあり、かつ消費活動もそれほど活発ではありません。そのため、かつての売り切り型サービスには限界が見え始めています。さらに購入者との距離が遠い状況ではニーズがつかみづらく、モノを作っても売れないと言った問題を抱えています。そこでIoTをベースに継続的に購入者との関係性を維持しつつ、デバイスとは別で利益の得られるストック型サービスに移行したいと考えています。
 ただしその際に大事なのは、ずばりニーズです。ニーズがないところにモノを売ろうとしても売れるわけはありません。さらに言えばネットワークとモノがつながった世界はまだまだ未開拓な分野であり、消費者にとっても自分のニーズを分かっていない状態と言えます。そのような中ではデバイスを通じて自分たちの考える新しい世界観を明確にし、かつそれが消費者にとって受け入れられる、さらに言えば彼ら自身認識していなかった潜在的ニーズを掘り起こさなければならないのです。
ネットワークが新しい可能性を切り開く
 これまでのB to Bビジネスにおいて、A社はセンサーを単体で動作するものとして販売してきました。もちろんそれが最適である場合もありますが、センサーだけの世界に小さくまとまってしまっていた感があります。センサーですべてを行う必要があるため、ブザーがあったり、画面があったりと多くの機能を含める必要があったと言えます。
 ネットワークを介してデバイスやセンサーがつながる世界になるとセンサーはごく小さく、かつ単機能で済むようになります。他のセンサーやデバイスとはデファクトになっているプロトコル(Wi-Fi、Bluetooth、USBなど)を使って通信すればよく、スマートフォンをはじめとしてより多くのデバイスとつなげられることがメリットになります。
 従来メーカーでは独自仕様への強いこだわりがありました。センサーとの通信方式であったり、その利用法について自分たちの利用を組み上げるのです。しかしネットワークとつながるようになると、そういった独自仕様では世界を狭めてしまいます。すでにある仕組みやフレームワークに則って、その枠組みの中で利用者の自由に使ってもらう視点が必要になります。
ディープラーニング・データ分析をクラウドで活用
 2015年くらいから注目を集めているのがディープラーニング(深層学習)です。小さなセンターデバイスが数万、数十万と稼働していると膨大なデータが入り込んできます。それらをリアルタイムに処理していくことで新しい価値、収益を生み出していくのです。その分析手法として、汎用的な機械学習によるディープラーニングが最先端の手法として知られています。現在は主に画像分析、音声認識などに用いられていますが、その可能性はもっと広がりを持っている技術です。
 ただし膨大なデータを保存するストレージやデータベース、さらに解析する仕組みを自社で組み上げるのは大きなコストがかかります。現在ではすでに多くのクラウドサービスがそうした解析サービスを提供しています。その意味でもメーカーはインターネット企業と組み、安価で素早く高度なデータ分析に対応できる仕組みを用意すべきと言えます。
飛騨 :消費者向けの製品では、センサーの測定値自体は見せなくてもよいでしょう。その代わり、おもちゃらしい感情表現であったり、振動での反応を返すほうがお勧めです。そしてセンサーから収集したデータはインターネットに上に保存して、御社で分析したり、解析・販売できるとよさそうです。
山田 :なるほど。もともとセンサーの値を利用者に見せたいと考えていましたが、ただ表示すればよいというものでもなさそうですね。
飛騨 :そうですね。消費者は製品やサービスをそのまま使いますので、汎用的だから良いというわけではありません。その分、画面も分かりやすくなっているのが肝心です。
 IoTには多くの可能性が秘められています。しかしそれも製品が数多く販売されてこそと言えるでしょう。まず消費者にとって明確で刺さるサービスを打ち出さなければいけません。そうして製品が大量に出回れば、ビッグデータはもちろんのこと、収益面においても様々な展開が考えられるようになるでしょう。

メーカーに欠けている視点

飛騨 :消費者向けのサービスは体験ありきです。その体験に合わせて、積極的にターゲットを絞り込む必要があります。
山田 :ターゲットを絞り込んだらその分市場が小さくなってしまいます。なるべく市場を狭めるようなことはしたくないんです。
飛騨 :分かりました。ではサービスを使ったテストマーケティングを繰り返し行って、その中からニーズのありそうな形態を探していきましょう
 かくしてA社と当社による企画会議が始まったのですが、その中で浮かび上がったのが次の3つの課題でした。
課題1:消費者マーケティング視点の欠如
 インターネットサービスにおいてユーザーニーズの分析は最重要です。ニーズがない独りよがりのサービスを出したところで、全く利用されずに終わってしまうことでしょう。そのためにテストマーケティングやアンケート、日々の改善を通じてユーザーニーズを探っていきます。メーカーは一般的に消費者に直接販売を行うことがないため、この視点が欠けていることが多いようです。
 例えば白物家電を買ったときにお客様登録という仕組みがあります。最近ようやくインターネットでもできるようになりましたが、その多くが未だに葉書を使っています。そして登録したからといって何かアクションがあるわけでもありません。その後の消費者との接点は修理とリコールのときくらいなのではないでしょうか。これでは利用者がどのように使っているのか、どこに不満を感じているのかはとても分からないでしょう。
 IoTはまだ始まったばかりの市場です。このような中、消費者ニーズがつかめていない状態で走り出してしまうのはとても危険で、成功する可能性が全く見えないと言わざるを得ません。
課題2:スピード感の欠如
 一般的にメーカーでは企画からプロトタイプの開発、そしてテストを経て量産に至るまでに数年を費やすのも当たり前です。その結果として高品質で確かなものが出来上がるのはすごいことなのですが、ことIoTに関してはスピードが遅すぎると言えます。従来の開発手法のままでは、デバイスができたときにはブームが終わってしまっているでしょう。
 インターネットサービスでは、サーバーにあるシステムによって情報が配信されます。そのシステムはすぐに修正できるものです。企業によっては数分単位でシステムを書き換えたり、A/Bテストを繰り返して随時改善を進めているといったケースも少なくありません。システム開発においてもここ数年、「アジャイル開発」と呼ばれる開発手法が取り入れられたことで、小さく作って徐々に拡大していくといった方法も一般的になってきました。
 もちろんリアルなモノとデジタルなサーバーで全く同じスピード感を実現するのは無理ですが、お互いに良い点を取り入れることはできます。A社との商品開発においてもアジャイル開発を念頭に進めています。
課題3:ユーザー体験が二の次にされている
 A社の当初の考え方は、「デジタルトイありき」でした。高性能、高品質なセンサーを作ったので、これと玩具そしてネットワークをつなげば何か生まれるのではないかと言った発想です。これでは、売れないことは確実でした。利用者の体験を考えたうえで、それに合わせたパッケージングや見せ方をしなければなりません。
 次に、「スマートフォンありき」という考えです。センサーからスマートフォンにデータを飛ばして、そこで表示すればよいだろうと言った考え方になります。実際、センサーを直接インターネットにつなぐのはコスト、仕組み的にも複雑になるためスマートフォンを介するというのはよくある方法です。
 そうした方法に安易に飛びつかず、なぜスマートフォンにつながなければならないのか、つないだ結果としてどんなメリットがあるのかを考えることが重要です。単にスマートフォンの画面上にデータを表示するだけであれば、玩具にディスプレイがあるだけで十分です。センサーをあえて脇役とし、スマートフォンで優れたユーザー体験を与える視点が必要なのです。A社はメーカーとしてセンサーに対する思い入れがあるため、そこを納得してもらうのは大変でした。

それでもメーカーがIoTに挑戦すべき理由

 ここまで挙げた内容を鑑みると、メーカーはIoTに挑戦しないほうがよいと思えてしまいます。しかしそんなことはありません。見方を変えれば挑戦すべき理由も見えてくるでしょう。私たちがA社との企画を通じて感じているメーカーの素晴らしさはいくつもあります。
製品に対する熱い思い
 製品を開発する立場にあって、熱い思い入れがなければ何を作ったとしても失敗するのは自明です。メーカーでは数年かけて製品を開発し、テストを重ねて品質保証するといった入念な期間をかけて製品開発を行っています。これは素早くサービスを立ち上げてうまくいかなければすぐにサービスを停止できるインターネットサービス事業者にはない視点と言えるでしょう。
 熱い思いが足かせになってしまう場合もあります。しかし自分たちの思いとサービスの方向性が合致したとき、これは強力なエネルギーになると感じています。
IoTはモノが必須
 IoTに対して、今騒いでいるのはインターネット企業ばかりなのが実情です。対するセンサーメーカーやデバイスメーカーは、情報を収集し、自分たちでは何ができるのかを企画している段階です。さらにメーカーは自分たちですべて構築したいという思いがあり、ネットワークにおける問題を抱えて頓挫しているケースも少なくありません。
 とは言えIoTにおいてモノの存在は絶対です。モノを持っているのはメーカーであり、そこには失敗しないためのモノ作りのノウハウが絶対に必要です。これまでにも多くのスタートアップ企業などがデバイス作りに参加しましたが、歩留まりや設計、品質管理などにおいて悩まされています。
 A社は早い段階で私たちをパートナーに選択しました。餅は餅屋として、お互いの持ち味を活かした取り組みがIoT製品開発を成功に導く秘訣と言えるでしょう。
 これまでインターネットにはほとんど触れずにきたメーカーと、モノの世界を知らないインターネット企業との連携では企画会議一つとっても話が平行線でなかなか合意を得られないことも珍しくありません。ただしお互い良いサービスを作り上げたいという思いは一緒です。
 次回以降、私たちの取り扱っている案件をベースとして、どのようにサービス企画を行い、その中でどのような課題を見つけ、そして解決していったのかを紹介していきたいと思います。第2回はIoTセンサーを販売していた企業を支援して売り上げを伸ばした事例について取り上げます。第3回はスピード感ある商品開発を可能にするIoT案件におけるアジャイル開発の取り組みについて紹介します。IoTという一見すると華やかな世界の裏側では多くの課題があり、それをどう解決すれば良いかといったリアルな世界観を知ってもらえるはずです。第4回は、まとめとしてIoT時代にメーカーが成功するためのポイントを解説します。


[第4回]IoT時代にメーカーが勝ち抜く4つのポイント

IoT化によって「モノ」を売るビジネスから「コト」や「サービス」を売るビジネスへの移行が起こっています。ここでいう「サービス」とは、IoTの中でもモノと連携したアプリケーションやWebサービスを指します。モノだけでは製品の差別化が困難となり、サービスを提供することで付加価値を上げる必要があります。
 最終回となる第4回では、第1回から第3回までを総括して、IoTの製品開発における4つのポイントを紹介します。
(1)ネットワーク技術の選択
(2)売り切りからストックモデルへの転換
(3)IoTのサービス作りをどのように取り組むか
(4)アジャイル開発〜失敗を恐れずにとにかくやってみる

ネットワーク技術に何を選択すべきなのか

 IoT機器を作る際に、必要になるのが通信モジュールです。IoTの中では「モノ」のセンサーデータを取得することや、遠隔から操作すること、最新のファームウェアに更新することなど、様々な用途があります。ただしどのような用途でも、モノがインターネットにつながっている状態であるためには通信が不可欠です。
 一方で、第1回に触れたように、IoTの通信規格には様々なものがあります。
・3G
・LTE
・Wi-Fi
・Bluetooth/Bluetooth Low Energy(BLE)
・RFID
・NFC
・ZigBee(920MHz帯)

上記の他にも多様にありますが、提供するモノがどのような環境化で利用されるか、バッテリーへの影響、通信距離の問題などを検討する必要があります。
 また、通信回線は安定性が気になるところかと思います。通信方式によっては、回線が不安定であることや、不通となってしまう場合もあります。また、クラウド(インターネットなどを活用してネットワークに接続されたコンピュータを利用するサービス)などのインターネットサービスを活用していれば、動作保障があったとしても障害が起きることはあるでしょう。こういったことは、事前に検討してリスクに盛り込んでおく必要があります。

売り切りからストックモデルへの転換

 サービスを提供するのはいいが、アプリを無料で提供していまったら維持するためのコストはどうやって回収するのか——。こうした疑問への回答は、「モノ+サービス」です(図4-1)。
図4-1●売り切りモデルとストックモデルの比較
出所:ニフティIoTデザインセンター
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 「モノ」を売る場合には、お客様から対価を得るのは一度切りで済んでいました。しかし、IoTに取り組むとなった場合には「モノ」だけではなくスマートフォンアプリやモノと連動したサービスが必要になります。IoTのビジネスは個人向けに限らず、法人向けでも「モノ+サービス」の提供が主流となっています。
 例えば、日本の建設機械・重機械メーカーであるコマツは、建設機械や鉱山機械を販売するだけではなく、コマツの建機を管理するための車両管理システム「KOMTRAX」をサービスとして提供しています。コマツの建機には、GPSや通信システムが装備されています。KOMTRAXは、車両内ネットワークから集められた情報やGPSにより取得された位置情報を集約することで、顧客や代理店が遠隔から建設機械の情報を確認できるのです。
 KOMTRAXにより建機の稼働時間や状態が可視化されて、メンテナンスのタイミングを事前に知らせることや、建機の管理・運用に関するコンサルティングを行うなどユーザーサポートも充実しています。建機に搭載する通信システムやセンサー、車両管理システムは、当然コストがかかります。しかし、コマツはこの車両管理システムを無償で提供しています。モノとサービスにより、付加価値を上げるコストに見合う利益を上げていると推測できます。
 一方で、継続的にサービスを提供することに対して、二の足を踏んでしまうメーカーのほうが多いように感じます。お客様の困り事や問題の解決策になり、付加価値になるサービスならば提供するべきです。しかし、これまでのビジネスモデルに固執してしまうと、上記のような課題を踏み越えることは難しいです。見方を変えてしまえば、対価を得る機会が一度しかなかった状態から、継続的に収益を得る機会があるかも知れないのです。
 製品に3Gの通信機能を持たせたら、その通信費はどう賄えばよいのか──。これもIoT製品の大きな課題です。
 これを解決する方法として、ユーザーが通信費を支払うモデルがあります。この場合にはメーカーを通すか、ユーザーが直接通信事業者に支払う場合があります。メーカーを通す場合には、モノとセットで「サービス料」としてしまう方法や、モノだけ売り切りとして、サービス料を支払ってもらう方法があります。これは、業種業態や製品の特性などからどういった形態がもっともよいか検証する必要があります。

ビジネスモデルから見たメーカーとサービス業の違い

 ここで従来のメーカーと、サービス業の違いを比較してみます。
 まず大きく異なるのは、ユーザーに対する個別対応の有無です。メーカーは、個別対応ではなく同じ品質のものをより効率的に作り、大量に販売することが一般的です。一方でサービス業は、個別の顧客に対して対応が異なることがあります。実際に当社が提供しているWebサービスやアプリ、クラウドのサービスについてもそうです。サービス体系は一律な面もありますが、利用するユーザーに合わせて操作画面を変更することや、ユーザーが必要な分だけクラウドを自由に使用できるサービスがあります。そして、利用した分や付加価値のある機能を有料サービスとして提供しています。
 ユーザーの「手離れ」についての考え方にも違いがあります。メーカーではメンテナンスがなるべく少ないように、手離れがよく、質の高い製品を提供します。サービス業では、手離れがよいことよりも、再利用してくれる仕組みを重視します。当社が提供しているWebサイトやアプリも訪問数が重要です。これによりお客様がサービスに対して、愛着を持ってもらい、利用してもらうことで対価を得ています。また、サービスではベータ版提供という形式もあります。これは、完成品になる前のサービスを実際に利用してもらいます。その状態でユーザーからの声に基づき、製品版にサービスを改修して本サービスとして提供する形態です。こういった考え方も必要でしょう。
 ユーザーの要件の明確さについての考えも異なる点です。メーカーではユーザーの要件を明確にして完成度の高い製品を提供します。しかし、サービス業においてはお客様の要件が曖昧なほどチャンスになると考えます。なぜなら、サービスは完成品から提供するのではなく、仮説を検証しながら改善して提供することができるからです。ただし、いかに短い期間で改善できるかが問われることになります。
 第1回で述べたように、日本の人口は減収傾向で、消費活動も活発でない状況では薄利多売で利益を確保するのは非常に困難な状況です。そうした時代に重要なことは、1人のユーザーに対して高付加価値なサービスを提供し、継続的にご利用いただくことだと考えています。その点において「IoT」は重要な武器となります。

IoTのサービス作りをどのように取り組むか

 メーカーがIoTサービスに取り組もうとしたとき、IoTサービスを作る際に必要な開発スキルと領域の広さが課題になります。「モノ+サービス」を構成する要素を分解してみます。「モノ」を構成する要素として、機械部品や電気部品、さらに電子制御やIoTに欠かせないセンサー技術があります。さらにアプリを含めたソフトウェアや、人がモノを制御するためにアプリケーションの操作画面を最適にする技術も求められます。これに加えて、インターネットに接続することやスマートフォンと接続するための通信技術、インターネットに接続すればサービスを提供するためのクラウドを要します。最後に、センサーから得られたデータを活用するための技術まであります。このように、「モノ」と「サービス」を提供するには幅広い領域が必要になります。
 では、これらをどのように用意すればよいのでしょうか。一貫して自社内で技術者を確保し、知見を貯めて取り組むことも選択肢の一つです。モノやサービスが目指したい状態を共有するコストが少ないですし、自社内に技術を蓄積することができます。一方で、自社が保有していない技術に対しては学習が必要なため、コストと期間が必要になります。先行投資としてはじめるならば良いですが、競争の早い現代においては、競合企業よりも早く製品やサービスをリリースしたい場合も多いでしょう。
そうしたときには、外部のパートナーを有効に活用する方法もあります。各領域において、強みとなるようなプレイヤーがいるため「餅は餅屋」といった組み合わせが有効です。先ほど述べたような構成要素から、「モノ」以外で主要な3つの要素をあげます。
(1)アプリーション
(2)通信インフラ
(3)クラウドサービス
 アプリケーションは、例えばスマートフォンのアプリを開発するためのアプリ開発パートナーです。通信インフラは、モノに移動体通信の機能を持たせようとした時には通信事業者をパートナーにする必要がある。最後に、クラウドサービスはIoTサービスで必須となるサーバーやデータを蓄積するためのサービスを提供するクラウドパートナーです。クラウドサービスの活用が有効な理由は、自社でサーバーを用意するよりも比較的コストが安く、構築も早く行うことができるからです。
 外部パートナーを選定する上で重要なことは、第3章で述べたようなアジャイル開発にも対応ができるパートナーと連携することです。IoTサービスは要件や仕様が容易に決められない場合が多く、仕様変更への対応が必要だからです。

アジャイル開発 〜失敗を恐れずにとにかくやってみる!〜

 前述のように、IoTサービスの開発は要件が明確化できない中で行うことがあります。短い期間で試作をして、実際に検証し、顧客のフィードバックを得て、すぐに改善する取り組みが必要になります。担当者の考え方としては、完璧を求めるのではなく、スピード感を持って小さな挑戦に取り組む姿勢が求められます。大枠の要望や要件に対して、最小限に価値となる「モノ+サービス」の開発をすることです。第3回で詳しく説明した通り、これまでの開発スタイルから脱却したアジャイル開発の考え方をとるべきです。
 小さな挑戦と表現していますが、「失敗」することはあります。一度の検証で、顧客にとって十分な価値にならない場合も当然あります。組織としては、そういった取り組みを許容できることが必要です。入念に検討した企画を、最短距離で開発にあてるよりも、短期間で開発した「モノ+サービス」をユーザーに利用してもらい、声を返してもらうことです。「失敗」で終わらせるのではなく、改善点として次のモノ+サービスに反映させられれば問題なしとすることが重要です。

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