2016年6月30日星期四

IoTで“5つの競争要因”はどう変わるのか

「IoT時代の競争戦略」(中編)
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1504/16/news009.html
経済学者マイケル・ポーター氏と米国PTCの社長兼CEOであるジェームズ・ヘプルマン氏の共著であるIoTに関する論文「IoT時代の競争戦略」が公開。その内容を解説する本稿だが中編では、IoTとスマートコネクテッドプロダクトにより業界構造がどう変わるかを紹介する。
ハーバードビジネススクール教授で、「競争の戦略」や「5つの力」などの著書を持つ経済学者マイケル・E・ポーター(Michael E. Porter)氏の、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)に関する最新論文「IoT時代の競争戦略(How Smart Connected Products Are Transforming Competition)」が公開された。共著は米国PTCの社長兼CEOであるジェームス・E・ヘプルマン(James E. Heppelmann)氏である。IoTを取り巻く企業の環境の変化をまとめた同論文の内容を解説する勉強会をPTCジャパンが開催した。
 本稿では3回に分けてその内容を紹介している。前編の「製造業に襲い掛かる第3次IT革命の波」ではIoTおよびスマートコネクテッドデバイス(接続機能を持つスマート製品)とはどういうもので具体的にどういう機能を保有するようになるのかを紹介したが、中編では「これらの変化が業界構造をどう変えるのか」について解説する。

マイケルポーターの“5つの競争要因”

 スマートコネクテッドデバイスによってもたらされる変化が企業の経営にとってどのような影響を与えるのかという点については、業界構造がどう変化するのかという点を見なければならなくなる。ポーター氏は著作「競争の戦略」の中で、企業間の競争のルールとなる“5つの競争要因(Five Forces)”を紹介しているが、IoTおよびスマートコネクテッドデバイスにおいても「買い手の交渉力」「既存企業同士競争」「新規参入者の脅威」「代替品や代替サービスの脅威」「サプライヤの交渉力」の5つの切り口で考えることで状況が読み解けるとしている(図1)。

図1:企業が考えるべき“5つの競争要因”(クリックで拡大)※出典PTCジャパン

買い手(顧客)の交渉力

 スマートコネクテッドプロダクトにより、製品の実際の使われ方が把握できるようになると、顧客のセグメンテーションや最適な製品設計、価格設定が行えるようになり、より顧客のニーズに合致した付加価値製品およびサービスを提供しやすくなる。またサービス提供者側と顧客側に継続的な関係性が生まれるために、買い手(顧客)が新たなサービス提供者に乗り換えるコストが上昇する。一方で、従来サービス提供者と買い手の間を結ぶ存在であった流通業や卸業などを“中抜き”できるようになり、収益性を確保しやすくなる可能性がある。これらのことから、メーカーやサービス提供者は買い手の交渉力をかわしやすくなるといえるかもしれない。
 例えば、GEの航空事業部門は、航空機エンジンに多くのセンサーと接続機能を搭載したことでスマートコネクテッドプロダクトとしている。そしてこれらから得られたデータを基に、航空キャリアと直接契約し最適な運航を指導するサービスなどを提供している。実際にイタリアのアリタリア航空ではGEと契約し燃料使用データの分析結果を基に操縦プロセスの変更を行ったことで燃料使用量を減らすことに成功したという。航空機エンジンは従来は航空機メーカーとの関係性が中心だったが、スマートコネクテッドプロダクトにより航空機キャリアと直接関係を作ることで、航空機メーカーに対しても強い立場を取れるようになる。
 ただ逆に、業界によっては、製品の機能や使い方などを買い手が理解しやすくなることで、買い手の交渉力を高める可能性があるので注意が必要になる。また売り切りの製品として販売するのではなくサービスとして提供する「製品のサービス化(サービタイゼーション)」などの場合では、乗り換えが容易になるため、買い手の交渉力が高まる場合もある(関連記事:製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない)。

既存企業同士の競争

 スマートコネクテッドプロダクトは、差別化や付加価値サービスの新たな方法をもたらすため、既存企業同士の競争関係も変える可能性がある。製品そのものではなくデータの提供やサービスの拡充などにより従来競争ポイントとしてきたところが、それぞれで異なってくるかもしれないからだ。
 例えば、テニスラケットメーカーであるフランスのバボラは、グリップ部分にセンサーと通信機能を内蔵した新製品「Play ピュア ドライブ」という製品を発売した。これは、センサーによりボールの速度やスピン、インパクトエリアなどのテニスのプレイの内容をスマートフォン向けのアプリで把握・分析できるというものだ。従来のラケットの品質や価格に加えて、新たなデータサービスという競争軸が生まれることになる。

新規参入者の脅威

 スマートコネクテッドプロダクトを展開するには、複雑な製品設計や組み込みソフトウェアの開発技術、ITインフラに必要な費用など、高い障壁があり、新規参入は容易ではないといえる。特に同領域で展開している企業が早期に製品のスマートコネクテッドデバイス化を図り、それに伴う新たな付加価値サービスを展開し先行者利益を得ている場合、乗り換えコストが高まるためにそれを突き崩すのは難しい状況となる。
 一方で、接続機能により、既存企業の強みや資産を無効にできるような場合には、新規参入しやすく、さらにその中で成功する可能性があるといえるだろう。既存企業はハードウェアに依存する強みや従来の収益モデル、サービス事業を守りたいがためにスマートコネクテッドプロダクトに取り組むのに二の足を踏む可能性がある。そこは新規参入者がつけ入るすきとなる。

図2:スマートコネクテッドプロダクトがもたらす事業領域の変遷(クリックで拡大)※出典:PTCジャパン

代替品や代替サービスの脅威

 スマートコネクテッドプロダクトには、従来の代替品に比べ性能やカスタマイズの機会を生むことで代替品や代替サービスの脅威を低減させる力がある。しかし一方で、旧来製品の機能や性能を取り込むことで新たなタイプの“代替の脅威”を生んでいる。
 例えば、ウェアラブル型フィットネス機器であるFitbitは、活動量や睡眠パターンなどの健康関連データを記録できることから、ランニングウォッチや歩数計など既存製品を代替する役割を果たしてしまう。また、「製品のサービス化」により、「所有する」ということを「共有する」ということで代替するという可能性も生んでいる。例えば必要な時に必要な場所ですぐに自動車を利用できるカーシェアリングサービスの米国zipcarは、ある意味では自動車メーカー各社の提供する自動車を代替しているといえる。

サプライヤの交渉力

 スマートコネクテッドプロダクトはサプライヤとの関係性を大きく変える可能性がある。製品の構成要素の中で、物理的なものよりもスマート部品や接続機能の価値が大きくなり、ソフトウェアに代替されるものが増える。その意味では従来のサプライヤーの交渉力は低下するといえるだろう。
 しかし、一方で「接続」をベースとしたスマートコネクテッドプロダクトは、「接続部分」については、企業ごとであるよりも業界ごとで統一・標準化された方が望ましいため、従来存在し得なかったメガサプライヤーが登場する可能性も生んでいる。
 1つの例がオープンオートモーティブアライアンス(OAA)だ(関連記事:車載Android推進団体OAAの参加規模が6倍に、2014年末に「Android Auto」も登場)。OAAは自動車へのAndroidプラットフォーム搭載を推進する団体で、自動車メーカーからは、Bentley Motors(ベントレー)、FIAT Chrysler Automobiles(フィアット クライスラー)、Ford Motor(フォード)、マツダ、三菱自動車、日産自動車、Renault(ルノー)、富士重工業、スズキ、Volkswagen(フォルクスワーゲン)、Volvo Cars(ボルボ)などが参加している。もし、Androidがこのまま普及したとすれば、Googleの交渉力を無視できなくなるだろう。

“5つの競争要因”から見える3つの傾向

 スマートコネクテッドプロダクトによる“5つの競争要因”の変化を見てきたが、実際には業界によって影響度は大きく変わる。ただその中でも鮮明な傾向が3つ見えてきたという。
 1つ目が、製品利用データの活用だ。製品利用データを早期に収集・蓄積し、それを活用したサービスを展開すれば、参入障壁を高められ先行者利益も獲得できるという。
 2つ目が、事業領域が拡大している業界では再編圧力が高まるということだ。その場合いくつもの製品を展開する企業よりも単一製品しか持たない企業は競争上不利になる。
 3つ目が、各業界において強い新規参入企業が生まれる可能性が高いという点だ。従来の製品定義や守るべき資産もない企業が、スマートコネクテッドプロダクトの可能性を引き出し、業界の慣習を打ち破るという。

スマートコネクテッドプロダクト時代に対応する社内体制

 では、具体的にこれらの変化に対応するためには社内の各部門にはどのようなことが要求されるのだろうか。製品設計、サービス、マーケティング、人材開発、セキュリティなどに求められることを見ていく。

製品設計

 スマートコネクテッドプロダクトの開発するには新たな製品設計原則が必要となる。カスタマイズはできる限りソフトウェアに任せハードウェアを規格化することや、パーソナル化の実現、アップグレードに対応する設計など、接続をベースにした設計手法を考えなければならなくなる。それに合わせて、製品のハードウェアやソフトウェア、接続機能を支える部品などを統合するために、システムエンジニアリングとアジャイル開発手法が必要になるが、多くの製造業においては現状では不十分だという。
 また製品が完成間近であったり販売後であったりしても効率よく設計変更が可能なように、設計開発プロセスも抜本的に見直す必要が出てくるだろう。さらに、製品のハードウェア開発とソフトウェア開発のスピード感が違うために、これらを合わせるための体制なども用意しなければならない。

アフターサービス

 スマートコネクテッドプロダクトは予防的なメンテナンスやアフターサービスにおける生産性の改善に大きく貢献する。製品のデータを常に把握できるために、これらの稼働状態を確認することで、故障や不具合の兆候を発見でき、壊れる前に修理を行えるようになる。しかし、これらを実現するためには、サービス組織やサービス提供プロセスの刷新が必須である。新たな付加価値を提供できる一方で、ビジネスモデルや契約関係も複雑となるので、従来以上にサービス契約の結び方が重要になってくる。

マーケティング

 スマートコネクテッドプロダクトを用いると常に顧客との関係性を保ち続けることができるので、マーケティング部門にも新しい技能や商習慣が必要になる。製品使用データを分析することで製品のポジショニングやセグメントなどを見直すことに活用できる。また、より顧客が価値が高いと考える領域に向けた製品やサービスを提供することなども可能となる。例えば、GEなど航空機エンジンメーカーは、航空機メーカーに対しエンジンを売るのではなく「エンジンの出力」を売る「Power by the Hour(パワーバイジアワー)」という契約なども行っている。

人材開発

 スマートコネクテッドプロダクトにより人材開発でも変化が生まれている。製造業にとってはこれまでは機械エンジニアなどが中心だったかもしれないが、そのような企業であっても、ソフトウェア開発、システムエンジニアリング、製品クラウド、ビッグデータ解析などの技能を持った人材が必要になる。

セキュリティ

 常に接続することが条件となるスマートコネクテッドプロダクトでは、セキュリティは最大の課題であるといえる。製品を出入りするデータや製品間を行き来するデータの保護、製品不正利用の防止、製品テクノロジースタックと他の企業システムとの安全な相互接続など、守らなければならないポイントは多い。このため、新たな認証プロセスや製品データの安全な保管、製品データと顧客データの保護、アクセス権限の設定と管理、製品そのもののセキュリティなど、取り組まなければならないことは多い。
◇     ◇     ◇     ◇
 中編では、IoTおよびスマートコネクテッドデバイスによって業界構造や競争のポイントがどう変わるかということを紹介した。後編では、これらの変化の中で企業が勝ち残るために考えるべき「10の選択肢」について説明する(後編に続く

没有评论:

发表评论